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グローバルなM&A

〜三角合併解禁時代〜               

提出日200782

17050161 経済学部経営学科3年 川村奈々美

E-mail:ma-chann.k@ezweb.ne.jp

 

目次

1はじめに

2三角合併について

2-1三角合併の仕組み

2-2三角合併に係る制度整備

2-3海外の制度との比較

2-4三角合併(and M&A)のメリット

2-5三角合併(and M&A)のデメリット

3買収防衛策について

4終わりに 

三角合併とグローバル化について

 

 

 

 

 

 

 

1.       はじめに

 200751日、日本でついに三角合併が解禁された。この事実はM&A(=Mergers and Acquisitions 企業の合併・買収)の国境線が消えたことを意味する。つまり、経済のグローバル化の荒波へ、いよいよ日本も巻き込まれてしまったのだ。

 本稿ではまず、三角合併や買収防衛策に関する基本的な知識を示すと共に、日本のM&A制度が未だ不十分である点を指摘する。そして次に、これらの事実をふまえた上で、帝国化におけるこの三角合併の役割を考え、私たちは今後どうあるべきかを考えたい。

 

2.       三角合併について

2-1三角合併の仕組み】

 

 三角合併とは、親会社が子会社を通じて別の会社を吸収合併する手法である。

 合併される側の株主は、その対価として相手の親会社の株式を受け取る。外国企業が日本企業を三角合併した場合、日本企業の株主は、保有株を外国株と交換する形になる。つまり、キャッシュなしで日本企業が買収できるようになるのである。

 三角合併の解禁は、外資による対日直接投資を増やす狙いで、065月施行の会社法[1]に盛り込まれたが、政財界に外資脅威論(外資による日本企業買収が増えるという脅威論)が浮上し[2]M&Aの環境を整備するとともに、企業が買収防衛策を導入する猶予を与える名目で、解禁は一年先送りとなっていた。

 ちなみに、三角合併を利用できるのは「海外国内」だけではない。日本企業が在米子会社を通じて英国企業を買収する「内外」、そして日本企業同士の「内内」でも使うことができる。

 旧商法では、子会社が親会社を保有することが原則禁じられていたが、065月の会社法施行により、外国子会社が日本の親会社株を保有できるようになった。これと同時に、日本から海外の三角合併[3]065月に解禁され、相手の国で三角合併が認可されていれば利用は可能になったのだ。国内企業同士も076月に解禁された。

 また、国内企業同士に限り99年の商法改正で株式交換[4]は既に認められている。しかし、子会社を買収したい会社に吸収合併させる逆三角合併は、事業の許認可を引き継げるなどのメリットもあるが、認められていない。

 

 

2-2三角合併解禁に係る制度整備】

 

 上記において、三角合併の解禁が一年先送りになった理由として、日本のM&A環境が不十分であることを述べた。ここではこの1年の間に、整備された主な制度、そして現在においても不備な点はどこかを指摘したい。

合併規制を緩和

 071月末、公正取引委員会が企業の合併を認めるかどうか審査する際の指針の改正案を発表。同年4月から新指針に基づく審査が始まった。公取委が合併を認めるかどうか審査するのは、合併で企業が巨大化し市場を独占すると、企業間の競争が制限され製品価格が不当に値上げするなど、需要家や消費者の利益を損なう可能性があるからだ。 今回公取委が合併規制を緩和したのは、経済界が、海外の巨大企業に対抗するため国内企業が合併しやすい環境を整えるよう[5]要請したため。

 改正のポイントは海外市場における寡占(少数の売り手による支配)の程度も考慮する点である。従来は原則として国内市場のシェアと特別な計算式で算出する寡占度指数を基に判断していた。新指針では外国企業と激しく競争している業界については海外市場でのシェアや寡占度指数を基に審査する。市場の範囲[6]をどこまで広げるかは公取委の判断になる。審査対象の市場範囲が海外に広がれば、国内市場を基準にした従来より合併が認められる可能性は高くなる。また合併でコストが削減され製品価格が下がる場合は寡占度が高くなっても合併が認められる。

 しかし、0774日、合併規制の緩和とは逆の動きがあった。公取委が企業が他社の株式を一定水準取得した後に義務付けている同委員会への報告について、株式の取得前の届出制とする方針を固めたのである。これは株式の取得による企業買収が増えていることから、早い段階で企業合併の動きを監視する目的。株価に影響を与えないよう届け出を受けた案件は原則非公開とする。しかし、現在の制度では銀行や保険会社、投資ファンドなどは、株式の取得報告義務の対象外。投資ファンドが同じ業種の複数企業の株式を取得し、市場の競争を実質的に制限する可能性もあり、法改正に向けては届け出対象外の投資ファンドなどにも届け出義務を課すかどうか議論になる見通し。

 この制度により、すでに事前届出制を採用している欧米などと足並みをそろえることになるが、届出や審査待ちの手間が機動的なM&Aの阻害要因[7]になるとの批判がある。しかし、事前の届け出に「お墨付き」を得られれば、株取得後に株式の処分を求められるケースは回避でき、企業にとっても利点があると公取委はみている。

技術流出の防止[8]

 外国企業の買収が活発になることで懸念されるのが、国家の安全にかかわる重要技術の流出である。製造業の国際競争力の源泉である基盤技術や、国の安全保障に関わる軍事目的に応用可能な技術を持つ日本企業が買収されれば、日本の防衛機密が海外に流出する可能性があるほか、テロや戦争に転用される恐れがある。

 このため、経済産業省は07426日、16年ぶりとなる外国為替法政省令などの大幅な見直し案を公表した。同法を主管する財務省と共同で8月にも施行する。

 外国企業が日本の上場企業の株式を10%以上取得する際、これまで武器、半導体などに限っていた外国為替法に基づく買収時の事前届け出の対象範囲を、軍事目的に応用可能な技術が使われた汎用品(先端素材や工作機械など6業種)にも拡大。生物化学兵器に利用できるバイオ製品、ミサイルや航空機などに応用できる炭素繊維も対象に含める。

 経産省は「あくまでも安全保障が目的」としているが、日本の技術力維持の狙いもあるとの見方は多い。技術流出については最低限の規制を設けることは国益に反さない。だが、買収そのものを妨げるべきではなく、世界の企業に不信感を持たせないためにも、制度運用の透明性を高める必要がある。

 そのために、経産省は具体的な品目を記したリストをつくり、実際にその品目を製造している企業だけを対象とする方針。投資する前に対象企業かどうか確認できるように、外国企業からの問い合わせに速やかに回答できる体制も整える計画だ。

少数株主保護のため情報開示の徹底

 合併する側の親会社に財務、事業状況などの情報開示を義務づける。この制度では、外国企業が日本企業の株式をTOB(=Takeover Bid またはTender Offer 株式公開買い付け)[9]で買い集めて大株主となり、日本企業の意に沿わない形で三角合併を探るケースも想定。日本企業の株主に不当に低い対価を押し付けることがないよう、合併の条件が適正と判断できる理由[10]を示す情報も開示するよう強制している。海外親会社は自社の株式の評価、損益計算書、監査報告など経営状態をわかりやすく説明する情報を日本語で提供する義務を負う。

課税の繰延について

 合併は税務上、吸収される会社が売却されたと考える。そのため、被買収企業の株主は時価で株式を交換したとみなされ、株式を売っていないのに課税される。吸収される会社も資産が時価評価され、含み益が課税対象となる。三角合併において、これらを実際に納税するのは買収側の子会社である存続会社だ。

 今回の三角合併解禁に際し、吸収される会社の株主に課税の繰り延べが認められないと、吸収される会社が課税されるうえ、株主にも譲渡益に対し課税負担がかかるため、株主総会で反対され合併が成立しないとみられていた。そのため、合併側の株式と吸収される側の株式を交換する際に発生する譲渡益について、一定の条件を満たせば実際に株式や資産を売却するまで課税が猶予される(=課税の繰り延べ)ことになったのである。

 その条件としては、存続子会社と吸収される会社とが共同で事業を行うなど、事業関連性が認められる場合が該当する。また、外資が日本にペーパーカンパニーを設立して合併することを懸念する声があったが、財務省は07413日に税制上の特例措置の条件を公表[11]。その内容は、外資が日本にペーパーカンパニーを設立して合併するケースは原則として認めず、海外企業の日本子会社が事業所を構え、従業員を雇用している場合に限定する[12]というもの収益を上げていなくても、広告宣伝や市場調査などの営業活動をしていれば課税の繰り延べを容認する。つまり、日本国内での事業開始に向け、電話やインターネットを使った広告宣伝や営業をする「事業準備会社」をつくれば、事業関連性が認められるのだ。これは日本に拠点を持っていない外国企業も三角合併ができるよう配慮した結果である。また、上記の他に、海外の租税回避地(タックス・ヘイブン)にある企業と日本企業の再編のケースも課税猶予の対象とはならない。

 

WORD

預託証券(日本型預託証券=JDRに関する上場制度を整備)

 外国企業が国外で資金調達手段として発行する代替証券。つまり、外国株をまとめて預かった金融機関などが発行する「預かり証」のようなものだ。

 本国で発行している原株式を信託銀行が預かり、それを裏付けに預託証券を発行、上場する。株の売買単位などは国によって異なり、そのまま日本で上場しても売れない株も多い。そのため日本市場にあわせた預託証券にして上場すれば、保有者(実質株主)は現金化しやすくなる。これは外国企業が国外で現物株式を発行するのが難しい場合や、株式の決済や流通制度が本国と異なる場合に利用することが多い。(ただし、非上場の預託証券は非上場株と同じで現金化は難しい。決済の手続きも煩雑。)

 この預託証券が9月にも日本(東京証券取引所[13])で解禁(預託証券の上場)されることとなった。ただし、有価証券報告書や目論見書の作成など、国内企業並みの情報開示を発行企業に義務付ける。この解禁により、海外企業は日本での資金調達がしやすくなり、三角合併の有効な対価となり得る。

 

 上記のような制度整備と会社法施行によりM&Aは容易になったが、特に税制が追いついていないのが現状だ。例えば、日本では現金を対価とする合併や株式交換、事業の一部を子会社化してその株式を株主に分配する会社分割(スピンオフ)を企業が行えば、企業や株主への課税が生じる。米国では同様の組織再編は非課税になる。つまり、日本の税制優遇の範囲は狭いのだ。健全なM&A環境を整えるならば、法律、税制、会計を三位一体で改革しないと相乗効果が得られず、一部の制度改革では実効性があがらないというフラストレーションがある。税制の不備はM&Aを阻害する致命的問題と言えるだろう。

 その他の問題点としては、三角合併に反対の株主が買取請求権を使う際、煩雑で個人投資家に不評の買取請求手続きが、ほとんど改善されていないことが挙げられる。また、三角合併で日本企業が外国企業に買われれば、被買収企業(日本企業)の株主の所持する株は外国企業の株となる。となると、企業、経営陣、株主(個人も含む)の利害が対立する「利益相反」問題は頻発するだろう。しかし、こうした「利益相反」に関するルールもまだ整備されていないのだ。さらに、日本は監視体制の強化も急務だ。買収の攻防では、法律の盲点を突く形で株式市場をゆがめる行為が起きやすい。これは、大幅な株式分割で株価を吊り上げ、買収を有利に運んだライブドア事件の教訓である。反社会勢力が匿名性に目をつけファンド経由で買収を試みる可能性も専門家の間では指摘されている。会社法の施行は確かにM&Aを促進する効果があるが、この法律は世界でも類を見ない甘い法律だという学者もいる。進化する不正を封じるために、強力な監視体制は必須だろう。

 


 

2-3海外の制度との比較】

(米国)

 三角合併が盛んなのは米国だ。買収防衛に関する判例法規も多い[14]。米国では成長企業がM&Aに自社株を使うことが多く、買収によって100%子会社化するニーズが強い。ところが、会社法が州ごとに異なる[15]ため、州をまたいだ株式交換ができないのだ。そこで対象会社と子会社を合併させて買収する三角合併が普及したのである。米国にとって三角合併は技術的要請があって用いられた方法と言えるだろう。

 上場の必要はないが三角合併の対価となる株式は公募増資と同じ扱いとなり、上場と同等の開示義務がある。情報開示について、米国では証券取引委員会(SECの規則や民事訴訟を背景とした市場の圧力が経営者の背中を押している面が大きく、TOBや委任状争奪戦(12頁)時の開示資料は、日本と比較にならない程情報量が多い。

 具体的には、詐欺防止条項といわれるSEC規則がある。重要情報に関して事実と異なる開示をするだけでなく、投資家の誤解を避けるための情報開示も義務付けているのが特徴だ。その他にも、米国では、多くの人が受けた損害に対し、全体を代表して訴訟を起こせる「クラスアクション(集合代表訴訟)[16]」制度もある。この制度により被害者一人ひとりでは訴えにくい損害をひとまとめにでき、訴訟が起こしやすい。詐欺防止条項違反は民事提訴の要因になるとされ、情報開示不測による損害を理由としたクラスアクションも数多い。買収するつもりはないのに企業に揺さぶりをかけて株価をつり上げ、高値で買い取りを求めるグリーンメーラーのような買収者は訴えられかねないのだ。虚偽や、誤解を生む開示には民事訴訟リスクが伴うのである。

 米国の情報開示規則において重要なのは、情報開示圧力が、買収提案や株主提案を受ける企業側だけでなく、提案者側にも向けられている点である。SEC規則は委任状勧誘をする側が、委任状洋紙や参考書類を株主に交付していなくても、広報文書などで株主に呼びかける段階から情報開示が義務付けている。そして、買収提案者は買い付け条件が固まっているなど、いくつかの用件を満たせば情報開示規則の適用を受ける。

 これに対し日本では、証券取引法施行令と内閣府例に委任状勧誘の規定があるが、委任状を使わない呼びかけには適用されない。また、委任状勧誘になっても委任状と参考書類は株主以外、閲覧できない。他方、参考書類以外の情報開示は特に規定がなく、株主が求める正確かつ十分な情報提供を置き去りにした双方の言い合いになることもある。そして金融商品取引法や東京証券取引所の適時開示規則で情報開示が義務づけられているが、企業以外の関係者の義務は米国ほど厳しくないのだ。

 米国では委任状発送の10日前にSECに書類を提出し、審査を受ける義務もあり、審査で認められなければ発送できない。このため日本の企業と株主との間で生じたような問題は起きない可能性がある。また、米国ではMBOの際にも厳しい情報開示規制があり、公正さを担保するため買収者との交渉は独立取締役で構成した特別委員会が担うことが多い。

 その他の日本との違いとしては、新株発行などの毒薬条項(ポイズンピル)を取締役会決議で導入・発動できること[17]そして上記で示した通り、税制の非課税範囲が広いことが挙げられる。

 

(英国)

 景気拡大が15年続く英国経済は、外資の積極的な受け入れが好調の要因と言われている[18]欧州主要国では合併制度がなく、三角合併はできない。しかし、英国では株式を対価にした買収は可能で外国株でもいい。だが買収者を厳格なTOBルールで律している上、対価となる株式は業界各国でロンドン証券取引所などへの上場が事実上義務づけられており、米国と同様の開示義務がある。そして買収に際し株主の判断を助けるために、投資家や経営者の代表が集まってできた「シティパネル(審査委員会)」という自主規制機関[19]があり、買収側と防衛側の双方に情報を提供するよう促している。

 このように整備された制度の背景としては、英国では徹底した株主利益重視の思想が根付いており、経営陣は株主が十分な情報に基づいて判断できるよう、環境を整えるべきだという意識が強いことが挙げられる。英国TOB「全部買い付け義務」[20]も、その本質は少数株主の保護にある。もちろん、このように株主の権利を徹底して保護する買収法制には、結果として買収を面倒なものにする副次効果もあるが、これにより、買収者が未上場でブローバック[21]を気にしないなどの場合に、質の悪い株式を株主が押し付けられることを回避できるのだ。

 

 

2-4三角合併(and M&A)のメリット】

(買収側)

n         株式を対価とすることで資金負担が大幅に軽減される。

 考えられるシナリオは、まず現金で議決権の過半数を取得し、その上で三角合併を株主総会に提案する「二段階買収」だ。この場合、100%子会社化でも現金は買収額の半分ですむ。医薬品など時価総額の内外格差が大きい業界では、三角合併の利用価値が高いと見られる。

(被買収側)

n         業界再編や企業再生・企業価値向上につながる。

 優れた外資が買収した日本企業を改革すれば、新たな成長のバネになる競争力が強い企業が誕生する[22]また、三角合併はベンチャー企業など非上場企業で、特にメリットが大きいと言われる。ベンチャー企業にとっては、外国企業の傘下に入ることで、その後の成長のサポートを受けやすい。また、新興のベンチャー企業にとっては、株式上場はかなり高いハードルなので、創業者にすれば三角合併で交付された外国企業の株式を売却すれば、容易に現金化が可能になるというメリットもある。このことから鑑みて、三角合併はむしろ中堅企業が取るべき手段だと言えるだろう。

n        経営者に緊張感を与え会社が活性化する。

(株主&社会全体)

n         M&Aの選択肢が増え、国際的な企業再編を促し、日本の産業が活性化する。

n         日本への直接投資[23]を呼び込み、経済を活性化する。

n          


 

2-5三角合併(and M&A)のデメリット】

(買収側)

n         制度の障壁は低くても、使い勝手の面で制約がある。

 三角合併も合併の一種であり、二社の取締役会で合意したうえ、株主総会で承認を得る必要がある。つまり、手続きとして被買収企業の取締役会決議で経営陣の同意を得て、その後株主総会でも3分の2以上の賛成が必要なのだ[24]さらに、日本の独特のビジネス慣習や文化・風土的なものなども事実上の制約となっている。

n         自社の株価が下がるリスクがある

 日本企業の株主が名前も知らない海外企業の株を嫌う場合、合併の成立後、すぐに外国企業(買収側)の株を売却する可能性がある。また、日本株専用で運用するファンドは海外株を組み入れられないので、外国企業との三角合併が始まると、株式を交換する前に市場で売らざるをえない。このような売り圧力による株価の急落を「ブローバック」と呼ぶ。これは国境をまたぐ株式対価の買収につきものの障害であり、この問題が解決すれば買収のハードルを一段と下げることができる[25]

n         日本では海外企業の参入や敵対的買収への反発が強く、企業イメージが低下する可能性がある。

 このように様々なデメリットがあり、三角合併の盛んな利用は見込めないように思われる。しかし、M&A全体を展望すれば、日本企業が国内外の企業や投資ファンドに合併・買収されるケースは今後も増えていく[26]ことは明らかであり、MATOBで株式を大量に仕込んだうえで三角合併に持ち込むという手法も考えられる。[27]この理由としては、世界的な企業間競争の激化や過剰流動性、低金利になどによるカネ余りが背景にある。

 

(被買収側)

n         特許など知的財産権の国外流出の懸念がある。

 例えば工作機械・計測器など、日本の産業競争力保持に重要な業種がある。こうした企業の時価総額は必ずしも高いとは限らず、外資の買収対象になりやすい。前述の「技術流出の防止」で記載されていたような対策は行われたが、依然として、民生用、軍事用の境界の技術が国外に流出すれば、国の安全保障問題になりかねない不安はある。

n         短期投資思考が強い買収ファンドが買収を仕掛けた場合、事業会社の経営にはマイナスに働く可能性がある。

 買収を仕掛けるのは、全てまっとうな外資とは限らない。投資ファンドなどによる投機的な買収攻勢に不安がある。M&Aで存在感を増している投資ファンドについては、企業再生などで役割に一定の評価がある一方、短期で投資を回収しようとする姿勢があるという警戒感も企業に根強い。

n         三角合併が敵対的TOB[28]に利用される可能性がある

 買収する会社のデメリットなどを総合的にみても、三角合併解禁だけで外資による大型の敵対的買収が急増するとは考えにくい。

 さらに、日本では敵対的TOBを実施する際に株主からの応募を受け付ける「公開買い付け代理人」を引き受ける証券会社がほとんど見当たらないということも理由の一つだ。この背景としては、TOB対象企業の経営陣の了解なく実施される敵対的TOBについて、証券各社は「敵対的買収者の味方に付いた」という評判が広がることを恐れているのである。

 公開買い付け代理人とは、株主がTOBに応募した株式の保管や買い付け代金の支払いなどの株式売買実務を代行する証券会社のこと。TOBを実施する企業やファンドは、あらかじめ代理人を務める証券会社を選ばなければならないのである。TOBの成功には、株主からスムーズに株券を集めることが不可欠であり、個人株主も応募しやすいように、全国に支店網を持つ大手証券や準大手証券に公開買い付け代理人を依頼するのが通常だ。これまで日本で実施された敵対的TOBでは、中小証券が代理人を務めた事例が大半[29]だった。今ではこのような代理人選びの壁を崩し、国内証券会社の意識改革を求める声も強い。

 だがこうした制約があると知っていても、日本企業側の多くは三角合併が敵対的買収に使われることを懸念している。それは、敵対的TOB委任上争奪戦などと三角合併を組み合わせ、子会社化することは理論上可能だからである。例えば、外国企業がTOBで議決権の過半数を確保すれば、買収に反対している日本企業の取締役を交代させることができる。そして、さらに委任状争奪戦で他の株主の賛同を求め、議決権の3分の2以上を確保すれば株主総会で三角合併が成立する。

 このように買収される会社にもメリットとデメリットがある。これらを踏まえ、買収提案を拒むか応じるかは、経営者が自社の企業価値を冷静に見つめ直し、どちらの選択が価値を高めるかを基準に判断すべきだろう。株式を公開した上場企業であれば、理由なく買収提案を拒むことはできない。自ら経営を続けた方が価値を高めることを説明し、株主の信任を得る必要がある。

 

WORD

委任状争奪戦(プロクシーファイト)

 株主や会社が議案の成否を巡って争うこと。

 株主総会では、各株主が持つ議決権を別の株主が代わりに行使することが認められており、その代理権を証明する書類が委任状である。委任状争奪戦の状況を平たく言えば、株主総会で自らの立場に賛成する株主を募る「多数派工作」だ。

 「委任状=議決権」を他の株主から集めることで、株式を買い増ししたのと同じ効果が得られる。例えば、株主が株主提案権を行使し、会社が対抗提案を出した場合、総会で会社と株主のどちらに賛同するかを巡り、勧誘合戦が行われる。

 委任状勧誘の方法は証券取引法と内閣府令で定められ、上場企業が適用対象だ。委任状の勧誘者はまず株主名簿の閲覧請求権を行使し、株主の名前と住所を入手。株主に賛否を判断してもらうための参考書類や賛否を記入する書面を作成し、自ら送付・回収して総会へ持っていく。総会での可決に必要な要件は議案の内容で異なる。[30]

 委任状勧誘制度の問題点としては、次の2つが考えられる。第一に、株主から複数の意思表示がされた場合、集計で混乱が生じる可能性がある。例としては、ある株主が会社提案に賛成する一方、その議案に反対のファンドに委任状を送付した場合などだ。また、総会前に大勢が決まらず成否が微妙な場合、票の扱いを巡り両者が対立、法廷闘争に発展するケースもありうる。第二に、防衛策承認を巡り委任状争奪戦が相次ぐなか、日本では投票の有効性を巡る判定ルールが明確化されていない[31]持ち株数の誤記や届出印と異なる押印の扱いなど、不透明な点が少なくないのである。今後は「灰色票」の扱いも、接戦の場合には法廷闘争になるだろう。

 

(株主&社会全体)

n         「強圧的買収」の可能性がある。

 三角合併に特徴的な問題。例えば、聞いたこともないような外国企業が三角合併を目指すと宣言し、低いプレミアムで現金によるTOBに乗り出すようなケースで懸念される。 株主は合併決議の必要数を満たすTOBが成立して、結果的にその会社の株を押し付けられるのが嫌なので、金額に不満ながらもTOBに応じるという、いわゆる「囚人のジレンマ」の状態におかれてしまうのだ。

n         日本の競争力の要となる技術が海外流出する恐れがある。

n         買収先の親会社である外国企業が日本の市場に上場していない場合、株式を売却することができない。

n         日本株専用で運用するファンドは海外株を組み入れられないので、外国企業と三角合併が決まったら、株式を交換する前に市場で売らざるをえない。

n         買収者が未上場でブローバックを気にしないなどの場合に質の悪い株式を株主が押し付けられる可能性がある。

 

 デメリットはあるが、株主はまず合併提案に対して株主総会で反対でき、合併が承認された場合でも、外国企業の株を保有したくなければ株式交換まで数ヶ月かかるので、その間に保有株を売れば問題はない。しかも、公正な価格での株式買取請求(ただし6頁参照)が会社法で認められている。したがって上記に挙げたうち多くのデメリットは回避できるだろう。

 


 

3.       買収防衛策について

 

 上記の買収されるデメリットを回避するため、多くの企業が防衛策導入に走っている。上場企業で防衛策を導入した企業は、約380社と全国上場企業の約1割に達する(日本経済新聞0779日)。

 買収防衛策とは、経営陣の意に反し株式の大量取得を目指す敵対的買収を防ぐ手法のことだ。

 買収防衛にあたって重視されるのは次の2点。

 @株主総会での承認手続き

 A買収防衛策を発動する条件

 企業買収の多くのケースでは、被買収企業の経営陣から独立した委員会(脚注36)が、買収者の狙いを「企業価値を損ねるかどうか」で判断し、買収防衛策を発動するかどうかを決めるのが一般的。このとき、買収者の意図を確認して、防衛策の発動を決めることを「事前警告型」(詳しくは以下)と呼ぶ。この場合、買収者の定義として、株式の15%以上(あるいは20%以上)を取得したものとする場合が多い。

 

 上には、買収防衛策を導入した企業のROEPBRのグラフを示した。このグラフを補足すると、PBR(株価純資産倍率)[32]は導入企業の64%が全上場企業の平均の2.1倍より低く、ROE(株主資本利益率)[33]56%の企業が平均値の8.3%を下回るという結果が出ている。つまり、買収防衛策を導入した企業の共通項をまとめると、@株式市場からの評価が低く(低PBR)、A資本効率も高くない(低ROE)企業が総じて多いのだ。こうした企業は合理化余地が大きいと買収者の興味を引きやすい[34]のである。

 この他にも買収されやすい企業の特徴としては、事業ごとに分社化している企業等が挙げられる。これは買収後に切り売りしやすいと映る可能性があるからだ。

 だがそもそも、日本では株式市況の低迷もあり、トップ企業といえども株式時価総額は欧米の巨大企業に比べて著しく小さい[35]。そのため買収対象になることを懸念し、上記の特徴を持つ企業に関わらず、多くの企業が買収防衛策を導入しているのだ。

 では一体どのような買収防衛策を導入しているのだろうか。主な防衛策を以下にまとめる。

 

ポイズン・ピル(毒薬条項)[36]

 アメリカ型の買収防衛策。買収コストが高くつくことを買収者に承知させて買収を断念させようとする手段のこと。さまざまなピルがあるが、通常は既存の株主に新株予約権[37]を与え、買収者が現れた場合には新株を発行して買収者以外の株主に取得してもらう。これによって買収者の持ち株比率を引き下げることが目的。


ü         事前警告型ライツプラン[38]

 会社があらかじめ買収に関して一定のルールを設定・公示しておき、買収者がこれを順守しない場合は、対抗手段として既存株主に対して新株予約権を発行するというもの。

 取締役会決議だけでも導入可能であるが、法的安定性を高めるために、最近は株主総会での承認を求めるケースが増えている。

ü         信託型ライツプラン型

 特別目的会社(SPCに普通株式を目的とする新株予約権を発行。SPCはこれを信託銀行に信託し、買収者が現れた場合、信託銀行が管理していた新株予約県を既存株主に交付する方式。無償で新株予約権を交付すると、株式の希薄化(既存の株主に対してマイナスになる)につながるが、この方法ではその心配はない。

 

安定株主の確保[39]


ü         株式持ち合い

 バブル崩壊前まで日本型資本主義典型の買収防衛策。取引先企業、取引先金融機関などとの間で行われる。株式持ち合いは、1960年代の資本自由化移行期、外資の買収攻勢に備えて本格化した。1990年代の不況等で、徐々に持ち合いは解消されたが最近では復活している[40]持ち合いに関しては、必ずしも何らかの宣言をする必要もないし、市場に対しても大きな影響を与えないので、防衛策としては一番手っ取り早い。さらに、短期的な株価上昇策を強要し、売り逃げを狙う攻撃的投資家や、企業の技術や人材の奪取を狙う敵対的買収者から企業を守るために最も効率的な方法だ。

 しかし、かつての持ち合いは、経営者へのけん制力が弱くなり、経営への緩みをもたらし、株式市場の空洞化を招く原因となってしまった。したがって、持ち合いをしながらもけん制力を維持する方法[41]を考えるべきだろう。

 また、株式持ち合いは一般的に、企業間の取引関係の強化を表向きの理由として、「第三者割当増資」(詳しくは以下で説明)を行うというやり方で実施される。

  第三者割当増資[42]

 特定の第三者(現在の株主であるかどうかは問わない)に新株予約権を付与するという増資形態である。第三者割当増資は、通常の公募増資とは異なり、指定された第三者のみが新株を購入することができるほか、市場の取引価格と比べると非常に安く購入できることが多い。すなはち、実質的な利益の供与でもある。

 M&Aにおいて第三者割当を行う際は、買収会社や資本参加をしようとする会社を第三者として割り当てることになる。定款に定める授権株式数の枠による制限はあるが、M&Aの手段としてこの方法を利用すると、短期間に経営支配権の移動が可能となる。ただし、資本参加の場合は100%株式取得には至らないので、100%支配するためには発行済株式を既存株主から取得する必要が生じる。

 しかし、この方法は、株式の価値を希薄化し第三者以外の株主に損害を与えるので、投資家保護を主眼とする証券取引法違反の疑いが強く、乱用すべきではないと言われている。実際の取引が行われず、敵対的買収の防衛のみが目的と解されると、裁判所に増資の差し止め請求が成される場合もある。

ü         社員を安定株主に[43]

 現在、これを模索する企業が増えている。この背景としては投資ファンドによるM&Aの他に、増配要求などの株主提案が相次いでいることが挙げられる。米国の従業員持ち株制度を応用した仕組みを採用し、買収防衛目的で従業員の持ち株を増やし始めた企業も出てきた。

ü         株主への利益配分を強化=増配

 株式の配当金を高額に設定して既存株主に株を安易に売らないようにアピールする。

ü         株主優待[44]の導入

 個人株主を取り込む手段として、株主優待は定着しつつある。野村インベスター・リレーションズによると、0764日時点で株主優待導入企業は1054社にのぼり、上場企業の4社に1社が実施している計算だ。その中身としては個人を意識したものが目立つ。事業拡大に伴う資金需要との見合いなどで配当は据え置くが、多くの企業が個人株主重視を鮮明にして自社グループのサービスを利用した優待策を広げている。

ü          IR[45]を強化

 株主へのアピールとして、企業間では個人向けIR(投資家向け広報)がブームになっている。株主優待をアピールしたり、意識調査のアンケートや個人を対象にした説明会を実施したりする企業が増えてきた。敵対的買収への危機感から個人株主との接点を探ろうというのが狙いである。

 

その他


ü         MBOManagement Buyout)を行い株式市場から撤退する[46]

 究極の防衛策。経営陣による自社株の取得を言う。こうなると、会社は閉鎖会社(上場廃止)となり、第三者が経営権を握ることは不可能となる。

 MBOには主な問題が二つある。第一に、多量の資金が必要であり、資金調達をどうするのか。この点に関しては、投資ファンドをパートナーとすることで資金の大半を調達しているケースが多い。投資ファンドは再上場や同業への転売などで利益を得るのが狙いなので、一部を出資する経営陣も買収価格が安いほどメリットを得ることになる。第二に、MBOにおける経営者の立場は複雑で、株主のためになるかどうかが問題[47]として挙げられる。というのも、MBOでは、経営陣は株主のために高い値段で株を売る義務を持つ一方、買い手としては安く買う誘惑に駆られてしまうからである。一般的に、日本企業の取締役は社内出身者が多く、株主の利益を代表するという意識が薄い。この利益相反問題に対し、0612月の証券取引法施行令の改正で、より細かく第三者の評価書の添付や利益相反の回避や公正性を担保するためにとった措置などの記載も必要になった。しかし、価格算定についてまだ不透明さが残るとの指摘もある。それは、第三者機関の評価書は経営陣の事業計画を基にしていることが多いためだ。事業計画が保守的な数値目標を掲げていればそれに基づく企業価値は当然低くなる。だからと言って、第三者機関が事業計画自体も検証・修正を加えるとなると費用が数億円に達するため、経営陣は事業評価だけを頼むことが多い。評価機関側も評価書で「事業計画はあくまで会社側の資料に基づくもの」との注釈を付ける例が大半だったのである。

  同様に利益相反の問題として、MBO前後の情報開示も疑念を挟まれる余地がある。例えば業績予想を保守的に設定、IRも消極的にして株価を低く保てば買収価格も安くなる。したがって、MBOの検討開始移行は、経営者は情報開示を怠る可能性があるのだ。さらに、株主には価格算定の基礎となる会社内部の情報を入手するのは難しく、会社側に資料提出を強制させる仕組みもない。

 以上のような利益相反の問題に対し、07718日に経済産業省の指針案が明らかになった。案には、TOB期間を30営業日以上として対抗買収の機会を設け、買い付け価格が適正になるようにするほか、株主への説明の充実や第三者委員会の活用が盛り込まれている。指針はTOBルールのように拘束力はないが、MBOに伴う不透明さを減らすとともに、少数株主の保護に力点を置いており、市場の活性化につなげる狙いがある。 

ü         全部取得条項付株式[48]

 会社法施行で導入された種類株[49]の一つ。2006年施行の会社法により、条文上は導入が可能となった。

 普通株から転換する(=全ての株式に取得条項を付けられる定款変更をする)には、株主総会に出席した株主の議決権の3分の2以上の賛成で可決される特別決議が必要だ。そこで転換されれば、保有者の意思に関係なく、全て強制的に株式を買い上げることができるので、買収防衛策としては有効な手段である。同種類株を活用すれば、事業売却や合併を円滑に進めたい企業にとっては、大株主に株を集めて意思決定を迅速にすることができる。全部取得条項付株式は、取得条項付株式の場合と異なり、取得の際に株主総会及び法廷種類株主総会での取得決議を要するというデメリットを持つ代わりに、その決議の際に取得対価を設定すればよいので、全部取得条項の設定の際に取得対価を設定する必要がないというメリットがあり、このメリットが「財産権の侵害」とする考え方もある。

 以上のように強制力を伴う株式だけに、会社法は株主の救済策も盛り込んだ。会社が示した買い取り価格では不服のある株主は裁判所に申し立てができる。企業の恣意的運営に一定の歯止めをかけることが狙いだ。

 株主が申し立てをすると、裁判所は会社側と株主側の双方から買い取り価格と算定根拠の主張を聞き、公正な価格を決める。裁判所が選任した公認会計士などの専門家が財務データなどに基づいて鑑定を実施するケースもある。裁判所は算定根拠を示して買い取り価格を決定する。

 また、0779日には、この「全部取得条項付株式」に対する課税ルールが明らかになった。株主が全部取得株を売却した場合、「みなし配当課税[50]」の対象になるかどうかが注目されていたが、国税庁はこのほど対象としない方針を決めた。売却益があった場合のみ「譲渡益課税」の対象とする。

ü         黄金株

 買収に関わる株主総会決議事項についての拒否権と譲渡制限の付いた株式のこと。普通株式を買い占められたときでも、黄金株を保有する株主によって重要事項の議決を拒否できる権限がある。原則として1株だけ信頼できる第三者に対して発行することができる。会社法施行により導入が可能になった。「拒否権付き株式」とも言われる。

 しかし、経済産業省・法務省のガイドラインは、買収予防策としてこれを認めたが、東京証券取引所はこれを導入した会社について上場を拒否すると表明した。その理由は、株主が協同で企業への資本出資を行い、リスクを背負うという「株式の原理」を無視していると東証側が考えたからである。

 しかし、0512月に、株主総会の決議で無効にできることなど一定の条件つきで黄金株を認めることが決まった。

 ちなみに、後継者の独断専行を防ぐため、オーナー経営者が経営権を譲ったあとも黄金株を保有して監視するケースが中小では多い。073月国税庁はこうした黄金株については加算評価せずに普通株と同じ扱いとし、事業承継時に利用しやすくした。(日本経済新聞0739日)

ü         企業同士の統合・再編

 

 長期的に健全な経営を促すには、企業防衛は不可欠だ。しかし、世界的な過剰流動性の中、ファンドが大金を集めることは容易になっており、巨大ファンドや事業会社がその気になれば、「FT時価総額ランキング」の100位以下の日本企業はいつ買収されてもおかしくない状況にある。したがって、防衛策は敵対的買収を防ぐという点では決定打にはならない。また、今後も増え続けると思われる国内企業同士の合併・買収も直接的には買収防衛とはならないだろう。なぜならば、日本企業が23社合併したところで、グローバルな巨大ビジネスには規模においても時価総額においてもかなわないからだ。

 また企業に対し、「買収提案への賛否は株主に委ねるべき」、「上場企業は株主を選べないことを自覚すべき」等という批判の声も上がっている。企業は目先の安全網整備に動きがちだが、根本的な防衛策とは、経営効率を高め、株式時価総額を最大化することだ。過剰な防衛策は、現経営陣が株主利益の最大化を図っているか否かのチェック機能を損なう危険性がある。経営者は買収者への対応で本業がおろそかに[51]ならないよう肝に銘じるべきだろう。

 


 

4.       まとめ

【三角合併とグローバル化について】

 

 1.3.において、三角合併や買収防衛策に関する基本的な知識をまとめた。これらを読み、三角合併解禁により劇的に企業買収が増えるわけではないこと、そして日本のM&A市場が不完全であることを理解して頂けたと思う。

 そもそも、三角合併解禁は、小泉首相とブッシュ大統領との間で2001年に合意された、「日米規制改革および競争政策イニシアティブ」(=Regulatory reform and Competition Policy Initiative「規制改革イニシアティブ」、「対日要望書」とも呼ぶ)が求めていた商法(会社法)改正が発端にある。つまり、この企業買収手段はアメリカ政府が日本政府に迫ったもので、日本政府や経済界が主体的に推進しようとしたものではなかったのだ。

 最近ではやっと、三角合併は数多ある企業買収手段の一つにすぎないという認識が広がってきたが、一時はメディアにひどく問題視されていた。この事実は、ここ一年の新聞や雑誌を眺めただけでも明らかだろう。そして三角合併解禁を執拗に要求した欧米各国の狙いも、合併対価の柔軟化はもちろんとして、むしろこうして問題視させることにあったのである。なぜならば、三角合併は、近い将来必ずできる世界統合総合取引所において、世界通貨となる株式[52]の交換に対する抵抗を減らすことが期待されていたからだ。

 最近、2009年に株券が電子化されることが頻繁にCMで流れているように、株式取引の電子・ネット化が進展した今日では、取引所は本来、世界で1つあれば用が足りてしまう。この実態を反映して、世界は今や、証券取引所の買収・合併を通した統合へ動き、その波及現象として日本で総合取引所構想が成され、銀行・証券兼業規制は見直されているのだ[53]そしていずれ取引所が統合されて一つになれば、電子化された株式自体が世界単一通貨のように交換、流通させることができ、自由に企業の売買が行えるようになるのである。だがこのような時代が到来した時、株式交換という手法に慣れていない日本は、世界のネックとなってしまう可能性があった。この事態を回避するために、ひとまず間接的な方法である三角合併が導入されたのである。

 では欧米の思惑通り、日本の意識改革は成功しているのだろうか。

 確かに、ここ数年で、企業価値向上のため、多くの会社でコーポレート・ガバナンスなどが取り入れられ、その理解も進みつつある。また、以下のアンケート結果を見比べて欲しい。

 

 200612月末、日本経済新聞が「大企業社長100人アンケート」を行った。その結果は、68%の社長が三角合併は「買収後の解体・転売への懸念」・「警戒する」としたのに対し、「歓迎する」と回答したのはわずか8%だった。ところが、野村総研の調査では、M&Aを経験した会社の従業員の約7割は敵対的買収に賛成という結果が出た(日本経済新聞2007116日付け)。その理由は、「現状の経営陣の交代を促す」「単独では生き残れない」などであった。

 『日経ビジネス』誌(2007115日号)が行った「ビジネスマン1089人に対するアンケート調査」での項目「あなたの会社が買収することをどう思いますか?」に対して、経営者(会長・社長)の回答は「できれば避けたい」「受け入れられない」という否定派が39.7%に上ったが、経営陣以外では、否定派は32.8%でしかなかった。しかも、肯定派は、なんと54.2%と、過半数以上に上った。

 日経リサーチが20072月に行った個人投資家調査では、保有株に敵対的TOB提案があれば「応じる」と考えている個人が、全体の48%に上っていた。これは、「応じない」の28%を上回り、個人はTOBで支払われるプレミアムに期待していることがわかった。[54]

 

 以上の結果から推測できるように、現在は敵対的買収に関して、「敵」という言葉だけで「悪」と決め付けていた従来とは違う。そして経営陣よりも従業員はM&Aに対する姿勢が積極的であり、個人投資家も極めて合理的に行動するようになったとも読み取れる。したがって、私たちの意識改革は順調に進行中だと言えそうだ。

 世界統合総合取引所の出現は、すなわちワン・ワールドシステム化であり、それはグローバル化に他ならない。三角合併解禁は、このグローバル化に対する私たちの消極的な意識を積極的なものへ昇華させる一つの契機だった。「大買収時代」はすでに世界中で始まっていることであり、三角合併解禁などなくても今後もM&Aが増加していくことは間違いない。そしてこの流れを日本一国で変えようもないのである。日本で起こったM&A事件など、微々たるものであることを示す次のようなデータがある。

 アメリカの調査会社、トムソン・ファイナンシャルによれば、世界のM&A金額は、2004年の22000億ドルから2006年には、42000億ドルと、倍増している[55]このうちの約80%が欧米企業の案件であり、日本企業相手の案件はわずか1000億ドル、約2.3%に過ぎない。また、日本のM&A1件当たりの規模が小さく、買収された企業の株に対して支払われる上乗せ価格は、米英では45%前後、ドイツ17%なのに対し、なんとマイナス1%。これは、日本では少数株主の保護が十分ではないこと、また、買い手同士の競争も少ないせいだと思われる。

 さらに日本では、2006年施行の改正高年齢者等雇用安定法で、定年制はなくなり、じきに導入されるホワイトカラー・エクゼンプションで時間外もなくなる。やがて、公的年金も削減され、増税も必至だろう。07高齢社会白書によると、05年に日本の高齢化率は20.1%に達し、イタリア(19.7%)を抜いて、世界一の高齢化国となった。50年には人口の40%が高齢者となる見込みだ。現在現役世代3.3人で高齢者1人を支えているが、55年には現役世代1.3人で高齢者1人を支えなければならなくなる。つまり、これらの事実が示すことは、今後の社会は会社勤めで給料をもらうという生き方だけでは生きられない時代になるということである。このような時代を生き抜くには、グローバル化を受け入れるというマインドの転換しかないということが自ずと知れるだろう。福沢諭吉は『文明論之概略』で、西洋文明の導入について、国体、政統、血統[56]の区別をたてることにより、伝統に固執しすぎて(西洋文明の導入に)反対することが、もっとも肝心な国体、すなわち国家の独立を危うくするものだと批判した。この批判は現在にも通じると思う。 

 

 

(参考文献)

・ 小倉正男著/M&A資本主義』/東洋経済新報社/2006

・ 中央青山監査法人編/CSR実践ガイド〜内部統制から報告書作成まで』/中央経済社/2004

・ 牧野二郎著/『新会社法の核心〜日本型「内部統制」問題』/岩波書店/2006

・ まがいまさこ/『図でわかる株入門』/フォレスト出版株式会社/2006

・ 日本証券業協会編/『新証券市場2007/証券教育広報センター/2007

・ 文藝春秋編/『日本の論点2007/文藝春秋/2006           論点32P318)・34P332)・37P356)・データファイル37P360361

・ 野間健著/『会社買収時代のサバイバル』/光文社/2007

 

 



[1] 株式会社などの会社を規律する法律として、従来の商法その他の法令に代わるものだが、この中には買収対抗策として用いることができる手段に関して新たな規定が設けられた。(例:取得請求権及び取得条項の取得対価として新株予約権を付けることが法律上可能になり、事実上の新株予約権付株式の発行が可能になった。)

 また、「金融商品取引法」が20066月に成立。これは金融資本市場の取引ルールを定めた基本法であり、証券取引法、投資信託法、金融先物取引法など金融関連法を一本化し、法の網をかいくぐる業者の取り締まりや販売・勧誘ルールの強化策を盛り込んだ。元本割れリスクのある商品全般が対象。

 同7月にインサイダー取引などの罰則を引き上げ、071月にはTOB(脚注9)規制を先行して改めた。これによりM&Aの手法として使われるTOBのルール整備が進行。市場内外の株取引を組み合わせ、発行済み株数の3分の1以上を取得する買収にもTOBを義務付けた。これは、村上ファンドが旧阪神電気鉄道に仕掛けたような「奇襲」を抑止する狙い。一方、買収防衛策が発動された場合、買収側がTOBを中止できるように撤回条件を柔軟化した。M&Aの増加で露呈したルールの不備を補った格好だ。しかし課題もある。発行済み株数の3分の1未満の株取得は対象外だが、3分の1近く取得されると、事実上経営支配権を握られるため、TOBの対象を拡大すべきだという声が出ている。また、敵対的買収防衛策を導入した企業の多くは、発行済み株数の1520%超の取得を目指す買収者を対象にしている。TOBが義務付けられる取得割合より低く設定しているわけだ。企業独自の買収防衛策が広がると、法で認められたTOBの実施が困難になり、制度が形骸化する恐れもある。

 販売・勧誘ルールは第3弾の改正となる9月にも実施し全面施行となる。(日本経済新聞0769日)

 

[2] 帝国データバンクが20073月下旬に行った調査で、回答を寄せた9736社のうち、46.4%の企業が三角合併解禁について「懸念が大きい」と回答している。逆に、「期待が大きい」とした企業は、わずか7.9%に過ぎなかった。最大の懸念事項として、「大企業による寡占化」と答えた企業は52.4%、「外資による買収攻勢」と答えた企業は45.9%もいた。

 この外資脅威論が大きく取沙汰されるようになった背景として、200312月、米ヘッジ・ファンドのスティール・パートナーズ・ジャパン(SPJ)が東証2部上場のユシロ化学工業とソトーに対し敵対的買収を仕掛けるという事件がある。これは、事実上日本で始めての外資による敵対的買収であった。彼らは企業清算、部分切り売りなどの先鋭的な手法を駆使して投資活動を繰り広げ、いわゆるアクティビスト(脚注39)的ヘッジ・ファンド投資による利益獲得が目的。「日本の経営者を教育する」と、SPJはその後も次々と日本企業の買収に手を染め、彼らが日本に本格的な企業買収時代をもたらしたと言える。特にSPJの明星食品への敵対的TOBは、二重の意味でM&A新時代を象徴する出来事だった。第一に、投資ファンドが表舞台に登場したこと。企業にとって親戚同然だった銀行との関係が株式持合い(詳しくは買収防衛策の所で)解消で薄れ、ファンドが資金力を武器に急接近したのである。そして第二に、食品、外食、流通といった消費者に縁の深い分野が主戦場になったことだ。

 一般の人々にも、「三角合併」、「外資脅威論」が認識され始めたのは、05年のライブドアによる日本放送、フジテレビのM&A事件、そして楽天によるTBSM&A事件が起こってからだろう。

 ちなみに、外資として恐れられているのは欧米の企業だけではない。急成長を遂げる中国やロシア、インドなどの新興国企業が、技術やブランドを手っ取り早く獲得するために、三角合併を使って日本企業を買収することも心配されている。例えば20071月には、中国の全国金融工作会議で、1兆ドルを超える政府の外貨準備を運用する「国家外資投資公司」の設立が決定された。中国は、貯め込んだ外資をもとに、政府による投資ファンドをつくったのである。この国家外資投資公司の巨額マネーは、中国に不足するエネルギー資源関連とハイテク・軍事技術関連に投じられる予定で、その意味からも、日本の時価総額の低い同分野の企業は株式交換を使わずとも、現金で買い取られる可能性があるのだ

 

[3] 日本企業に一つだけ三角合併の実例がある。北米でコンデンサーなどの電子部品を製造するAVX(サウスカロライナ州)を1990年に買収した京セラは、資金に余裕がなく三角合併を選択した。対価の800億円強を自社株式で支払ったのである。

                                                                           

[4] 株式交換とは、企業が買収先の株主に自社株を交付して100%子会社にするM&Aの手法のこと。すなわち、これは合併対価の流動化に他ならず、企業の再編や再構築を促進することが見込まれる。もちろん、株式交換による企業買収を実施する三角合併にも同様の効果がある。だが世界全体でみても、これまでの企業買収の多くは現金で行われ、補助的手段として株式が使われている。

 

[5] 例えば、鉄鋼業界では2006、オランダとルクセンブルクの大手企業同士が合併してアルセロール・ミタルが誕生し、生産量で新日本製鉄の三倍の規模になった。こうした企業と競争するためには、日本企業も合併で大きくなる必要がある。しかし従来の審査基準は大きな壁となっていたのだ。

 

[6] 半導体や液晶、ソフトウエアなど世界中で競争している業界は世界全体でのシェアや指数を基準にし、鉄鋼など主にアジア地域の製品と競合している業界では、アジア市場が範囲になると考えられる。

 

[7] 手間と時間のかかる企業同士の合併交渉ではなく、一定水準の株式の買い進めに乗り出す例が最近の主流であり、事前届出制により、再編スピードが遅延する虞がある。

 M&Aの動きを萎縮させることなく、同時に寡占の弊害を厳しくチェックするには、公取委の審査のあり方を、もっぱら事前規制に重点を置く今までの方式から、事後規制も重視する方向に軸足を移すべきだとの意見もある。最初は間口を広くとってM&Aの自由度を高める代わりに、統合後も監視を緩めず、なにか問題があれば厳しい処分を下すというやり方だ。(日本経済新聞0752日)

[8] 米国やカナダは外国勢による自国企業買収の審査を強化、欧州でも外資を阻止する動きがある。中国の国有投資ファンドや中東系企業などが軍事技術や資源などに関係する企業を買収し、米加両国の安全保障を脅かす事態を避けるためだ。(日本経済新聞07714日)

 

[9] 一定期間内に、一定数量以上の株式を、通常は時価を上回る価格で買付けることを言う。公開買い付けに当たっては、それを公表して売り手を募ることになる。その目的は、経営権の取得や経営支配権の強化であり、敵対的なもの、友好的なもの、経営陣によるものなどがある。

 

[10] 三角合併を仕掛ける企業は、買収相手の株主に、@なぜ現金で買収しないのかA少数株主にどう配慮するのかB対価に受け取る株はどこで現金化できるか―など、新たに12の情報開示が義務付けられる。しかし開示項目が決まっても、株主総会までに与えられる検討期間はわずか2週間。「名前も知らなかった企業の情報を、予備知識がある日本企業と同じ時間で分析できるのか」という声もある。

 

[11] これにより、三角合併に関する制度整備は完了し、法律や税制が三角合併制度の活用を妨げることはなくなったとの見方が多い。しかし、日本のM&A環境は未だに不十分であることは本稿を読んでいけば明らかである。

 

[12] これにより、外国企業が日本国内に事業実態がない子会社を通じて買収を行えるという三角合併本来の最大のメリットがなくなったと言える。

 

[13] 東京証券取引所に上場する外国企業は現在26社と、1991年のピークから100社余り減少した。欧米企業の多くは、東証での取引低迷を理由に90年代半ばから相次いで上場を取りやめたためだ。新たに解禁される預託証券が投資家の間で根付くには、上場後に流動性を確保する仕組みづくりが欠かせない。新規に上場する預託証券は、個人投資家も安心して売買できることが前提となるため、東証は国内企業と同等の上場審査基準を適用する。ただし、対象企業が米国で上場している場合には、政府は有価証券報告書に米国会計基準の財務諸表を記載することも認める。東証の上場審査も米国会計基準で進め、日本上場を目指す外国企業の手間を省く。また、東証は一般のM&Aと同様、迅速な情報開示を求める方針だ。(日本経済新聞07617日)

 

[14] ダイムラー・ベンツがクライスラーを買収する時に三角合併を使ったことは有名だろう。ちなみに昨年の米グーグルによる動画共有サイトのユーチューブ買収も三角合併を使っていた。

日本は英国のような裁定機関がないので米国型の当事者攻防だが、判例がまだ十分に積みあがっていないため、攻守、マニアックな知恵の競い合いになってしまうことがある。

 

[15] 米国は連邦会社法がない珍しい国なので、連邦統一企業買収法を作れない。しかし、州会社法は自州の企業を守る反買収法を持っている。

 

[16] クラスアクションは緊張感を生む劇薬ともなるが、訴訟乱発を招くなど弊害も多い。

 

[17] ポイズンピルについては買収防衛策の所で詳しく説明する。

 米国のポイズンピルは身売り条件の引き上げ交渉の道具という色彩が濃く、本当の買収防衛策としてはほとんど機能していない。加えてその発動を担う取締役会も、半分以上を社外で構成する株主の利益代表機関だ。そこが決める買収防衛策と日本の取締役会が決める防衛策とでは、株主から見た正当性に差があるとの主張もある。だが一方で、社外取締役は業務の内容に関与することはなく、外部の常識を持ち込むことは可能であっても、業務自体の審査や重要な決定を行うことは事実上不可能という批判の声もある。

 日本でも、防衛策の導入は取締役会決議で可能。しかし、実務的には株主の意思を尊重するため、株主総会の関与を求める場合が多い。

 

[18] 10 年前の欧州での企業や経営者の考え方は、現在の日本に似ていると言われる。中核と非中核の事業をきちんと区別できず、頭では競争力のある分野に集中した方が良いと分かっていても、行動が伴わない。10年前の欧州はそこに米国発祥の買収ファンドが現れ、企業の背中を押した。現在の欧州経済が好調な一因として、企業がファンドの力を借りて強くなったことが挙げられる。(日本経済新聞07618日)

  077月、英国の上場企業の約半数が事実上、外資の傘下に入っていることが英財務省の調査で明らかになった。外国企業や投資家に実質保有されている比率が10年前の30%弱から約50%に上昇した。これは、他の欧州主要国に比べ、市場開放策を徹底した結果、国境を越えるM&Aで外国企業に買収される英企業が急増したためだ。英政府は外国企業の支配下に入る英企業の増加は、法人税など企業からの税収に影響しかねないとの懸念を持ち、法人税制の抜本改革に取り組む考えを表明した。(日本経済新聞0773日)

 

[19] 英国にはいかなる場合にも対応できる「シティコード」という規則が存在し、「こういうときはこうする」というプリンシプルとルールが詳細に定められている。新しい問題が生じるとシティパネルの幹部が緊急に集まり、徹夜してでも答えを出す。

 日本でも買収防衛策など株主総会での会社側提案に、賛成すべきかどうか投資家に助言するサービスへの需要が増している。企業買収に際して株主の判断を助け、買収を株主本位で進めるための仕組みやルールを一層充実させるべきだろう。

 

[20] 30%超の取得を目指す場合、応募株は全て買い付けなければならないというルールのこと。この他、30%超の株式取得には資金面の裏付けなど厳しい規制がある。日本では、3分の2以上の株式取得を目指す場合、応募株は全て買い付けなければならない。

 

[21] 詳しくは三角合併のデメリットの所で説明する。

 

[22] この成功例としては、02年にスイスの医薬品大手ロシュの傘下に入った中外製薬が挙げられる。中外製薬では、合併後の株価が25倍に上昇。成功の要因は単なる「ロシュ頼み」ではなく、両社がバイオ医薬品で相互補完の関係を築いた点にあると言われる。

 

[23] 現在日本の対内(=対日)直接投資(直接投資残高は)は対GDP比で2%超である。先進国全体、世界全体で見ても20%を、ヨーロッパでは30%を超えていることより、日本は圧倒的に低いことが分かる。対内直接投資が拡大できれば、日本は魅力ある市場となれるため、小泉政権は「2010年末までに対日直接投資をGDP5%にまで引き上げる」という政府目標を出した。また、三角合併は対日投資の手段を複雑化しているとの批判もある。

 

[24] この制度が、敵対的買収を防止する役割を担っている。ただし、買収側が敵対的買収を実施し、現金で3分の2以上の株式を取得して経営権を握った後に、三角合併を活用するというシナリオも考えられる。敵対的買収については、被買収側のデメリットを見て欲しい。

[25] この問題に対する対策として、上場により知名度を高めるという方法がある。事実、合併解禁の数ヶ月前、東証関係者が欧米や中国、インド企業を訪問した際、多くの企業が東証上場に意欲を示したという。

 

[26] 米調査会社トムソンファイナンシャル07621日までのデータによると、世界のM&Aは前年同期比5割増の約25千億j(約300兆円)、件数ベースでは18600件となり、上期として過去最高を更新した。オランダの大手金融機関ABNアムロを巡る買収など大型案件が相次いだほか、株高やカネ余りなどを背景に、ファンドによる大型買収も全体を押し上げた。

 また、レコフによると、日本の200716月の上場企業を対象としたM&A338件と前年同期を約2割上回って半期ベースで過去最高となった。海外企業による買収や、業界・グループ再編などが活発で、TOB件数も50件と過去最高になった。(日本経済新聞07630日)

[27] 07426日、外国企業による「日本買い」として最大級となるシティグループの日興コーディアルグループに対するTOBが成功した。この後三角合併により完全子会社化する可能性がある。

 

[28] 通常は買収対象会社の経営陣が反対する買収のこと。06年の世界のM&A件数に占める「敵対的買収」の比率はわずか01%(日本経済新聞0768日)で、世界でも三角合併が敵対的買収に使われた例はほとんどない。

 日本でも上場企業の敵対的TOBに成功例がない。このため、いきなりTOBをかけたのでは、銀行や証券会社の協力も得にくくなり、最初から敵対的な姿勢では、自社のイメージダウンや相手企業の従業員の反発を招くリスクが大きい。そのため、昨年より日本では前提条件をつけた「たら・ればTOB」提案が目立っている。具体例としては、HOYAがペンタックスにTOBを提案する際、相手企業の賛同を条件にしている。つまり、敵対的買収の可能性を示唆して相手企業に圧力をかけつつ、友好的買収に向けて努力する姿勢を社会に見せたいのだ。このような条件付の発表は日本特有の方法だと言われている。

 米国ではまず水面下で交渉し、決裂したら即座にTOBを始めることが多い。何故ならば、提案段階でTOB価格を公表すると、買収対象企業の株価が上がってしまうからだ。正式なTOB価格を提案時より引き上げないと、成功する確率は下がってしまう。したがって、日本のこのようなTOBが連発すれば証券市場をゆがめかねない。投資家への配慮を含め、どこまで真剣にTOBを検討したのかが、提案後の行動で評価されると言える。(日本経済新聞07521日)

 

[29] 例としては、06年王子製紙による北越製紙の敵対的買収が挙げられる。この公開買い付け代理人を引き受けたのは、証券界のガリバー・野村證券(以下野村)だ。

 野村はこれまで、数多い国内法人顧客を取り入れるために、特定企業に肩入れすることには消極的だった。その野村がついに、国内企業同士の敵対的TOBの「仕掛け人」となることを決意したのも、07年に三角合併が解禁され、日本にもいよいよ世界規模で進む大買収時代がやってくるという読みがあったからだ。野村には、このTOBが成立すれば、同業他社にTOBを仕掛けたいという野心を持つ日本企業を集めて、新しい投資銀行業をスタートさせるという下心もあった。

 ちなみに、このTOBは従来までのサヤ稼ぎを狙った投資ファンドによる敵対的TOBではないため世間の注目を浴びていた。この事件により「買収はもはや禁じ手ではない」という意識が広がったと言える。結局失敗に終わってしまったが、多くの示唆に富むものだった。

 

[30] 例えば、楽天がTBSへ株主提案している社外取締役の選任などは、総会で行使された議決権のうち過半数の賛成で可決となる。ちなみにこの争奪戦の勝者はTBSだった。

 今のところ企業とファンドが対立するケースが目立つが、この楽天とTBSの争いのように、事業会社同士の争奪戦も起きている。企業とファンドが対立する例としては、東京鋼鐵の大阪製鐵の完全子会社化について会社側と投資ファンドの争いや、サッポロホールディングスと米系ファンドのスティール・パートナーズの争いなどがある。前者はファンド側が勝ち、後者は会社側が勝った。また、今年の5月には、アデランスの総会で、株主間で意見が対立するという新パターンも登場している。

 

[31] 日本のM&A関連法制が欧米に比べ脆弱と言える理由の一つ。

[32] 時価総額が解散価値(純資産)の何倍かを示す。

[33]

[34] 城森倫雄・元伊勢丹会長が狙われる会社の共通点として次のような5カ条を挙げている。

1過小資本2割安な株価3経営陣・労使の内紛4主取引銀行の不定見5トップのイージーゴーイングな姿勢

 

[35] 日本の株式時価総額がいかに小さいかを以下に示す。

·          イトーヨーカ堂の株式時価総額は米小売大手ウォルマート・ストアーズの14分の1 

·          松下電器産業は米電機大手ゼネラル・エレクトリックの10分の1

·          三菱東京フィナンシャル・グループは米シティ・グループ(時価総額約28兆円)の4分の1

·         医薬品の断トツ企業武田薬品は米ファイザーの3分の1(米ファイザーはさらにスウェーデンのファルマシア買収で株式交換を利用し超巨大企業化)

·         日用品メーカー花王は、世界最大のプロクター&ギャンブルP&G13分の1

 上記のような時価総額の大きい欧米企業にとって、三角合併解禁により株式交換で企業が買収できるようになった日本は、大型買収に伴う負担が小さくなり、無理なく買収に乗り出せる場になった。バブル崩壊より、リストラによって経営体質が改善したうえ、株価が割安な日本の企業は、絶好の買収対象なのである。外資脅威論が騒がれたのも、このように日本の株式時価総額が相対的に小さいことが根本にある。

 

[36] 別名は「シェアホルダー・ライツ・プラン」(shareholder rights plan)または「ライツプラン」。買収側が発行差し止めを請求すれば司法が可否を判断する。このため公平性の面では比較的問題が少ないと言われる。ちなみに076月に可決されたTBSの防衛策は「濫用的買収者」が権利行使できない新株予約権を全株主に割り当て、買収者の持ち株比率を下げる仕組み。

 

[37] 新株を一般公募するときに、会社が新株を株主に優先的かつ安値で発行すること。これを会社に行使することにより、当該株式の交付を受け付けることができる権利。新株引受権証券は、2002年の改正商法によち、市場で売買できるようになったため、買収防衛策の1つとして使われるようになった。

 

[38] 「事前警告型」と略されることも多い。導入される買収防衛策の9割以上がこの事前警告型である。この買収防衛策は一定水準の株式を買うものが現れると「企業価値算定委員会」や「独立委員会」といった根拠不明な委員会が判決を下すことになっている。これに対し、買収がなくても一定の報酬を払って委員会を各企業が持つくらいなら、これを一箇所に集めて信頼のおける専門家によって、統一的な判断をすべきだとの意見もある。この仕組みが英国のシティパネルである。(日本経済新聞0774日)

 ちなみに07628日に東京地裁が適法と判断したSPJに対するブルドックの買収防衛策も事前警告型だ。

 

[39] 安定株主を求める背景として、個人株主の影響力が増大したことが挙げられる。個人株主を獲得するための対策として、分割などにより、小額から投資できるようにした企業は06年度だけで200社を上回った。このような企業の動きとともに、「貯蓄から投資へ」という風潮もあり、個人株主数は11年連続で最高を更新中。全国上場企業の個人株主は073月末に延べ人数が4千万人を超え、過去最多となった。外国人の持ち株比率も、06年度には28%と過去最高を記録。(日本経済新聞07622日)ただし、ここでの「外国人」というのは、その投資家の居住国によって決まる。つまり、日本人であっても、居住地が日本以外ならば、日本市場においては「外国人」として扱われるので、全てが海外からの投資とは言い切れない。

 また数だけでなく、株主の発言力も増している。07年春、東京鋼鉄と大阪製鉄の統合案否決に個人株主が大きな役割を果たしたことは記憶に新しい。また、076月の総会シーズンでは外資系投資ファンドを中心に株主提案が急増し、過去最多になった。株主提案の内容としては、増配や取締役選任を求めるケースが多い。

 少し前までは、「モノ言う株主」の存在が取沙汰されることが多かったが、現在は上記のようなアクティビストと呼ばれる「行動する株主」にも注目が集まっている。アクティビストとは、投資リターンを高めるため企業に事業分離や経営陣交代など改革圧力をかける投資家のこと。厳密な定義はないが、株主価値の向上を求める「モノ言う株主」の中でも、特に厳しい姿勢の投資家を指すことが多い。このような株主の存在は、経営者に緊張感を持たせ、市場にダイナミズムをもたらす。ただし、強引な手法に反発が出ているのも事実だ。だが彼らの言い分は極めて合理的なことが多い。

 

[40] 07 630日現在、金融機関(信託銀行除く)と事業法人を合わせた持ち株比率は上場企業全体の34%に上る。その大部分はかつてのように銀行を中心とした持ち合いではなく、当該企業の取引先や同業者とみられ、経営陣に心情的に近かったり、経営体制の急変に不安を抱いたりすることが多い。

 

[41] 有効な代案となるのは、持ち合いファンドである。持ち合い株の管理を適切な第三者機関に委ねることによって、健全な経営を促進するようなガバナンスが行われるようにすることだ。

 株主に迎合する経営ではなく、よりよい経営を促すことによって長期的な企業価値を高める経営を可能にするガバナンスを行うのがファンドの任務である。このファンドをどのように組織すればよいか、誰が管理すればよいか、知恵を働かせる必要がある。

 企業にとっても投資家にとっても望ましいのは、複数のファンドが競い合うことだ。競い合うことによって、よりよいガバナンスのあり方が見えてくるだろう。企業の側も複数のファンドに分散拠出すれば、リスクを防げる。このファンドが有効であれば、このファンドに議決権を預託しようとする投資家が出てくるかもしれない。そうすればもっと効果的である。(日本経済新聞07613日)

 

[42] いざというときの買収防衛策で、20053月のライブドアによるニッポン放送買収騒動で有名になった。また、第三者には、取引先や自社の役員などが縁故者となることが多いので、俗に「縁故募集」とも呼ばれる。

 

[43] 三井住友が提案する「シンセティックESOP(イソップ)」という新方式の社員持ち株制度が注目を集めている。

 この新方式は米国のイソップ(ESOPEmployee Stock Ownership Plan 従業員持株制度)が手本。イソップは年金信託の仕組みを使い、従業員の財産形成や経営陣との共同体意識を醸成するために、有効な制度とされる。会社は従業員に奨励金などの便宜を与えて、自社株の取得・保有を奨励する。この従業員持株会の基金が、企業買収の資金源となる場合がある。企業が市場から自社株を買い付けて従業員に分配する。米国では確定拠出年金の一環として導入する企業が多く、イソップや類似制度の加入者は千万人以上、株式の資産総額は70兆円以上との統計がある。社員の動機付けのほか買収防衛策としての意味合いが強い。

 三井住友が開発した新方式は、自社株の買い付けを目的とする 特別目的会社(SPC)を設立するのが特徴。会社がすでに保有する自社株をSPCに売却。そこから従業員持ち株会に毎月、従業員の拠出額に応じて株式を移す。株式市場から直接、株式を買い付けるのとは異なり、市場の需給に影響を与えずに一定の株式を購入できる。従業員持ち株会は従業員一人ひとりの意思を確認し、賛否の比率に応じて代表者である理事が「不統一行使」と呼ぶ方式で議決権を行使する。

 

[44] 例えばソフトバンク。07523日に株主優待制度を拡充すると発表。三月末で100株以上を保有する株主が同社の携帯電話に新規加入した場合、現金1万円を返金する。利益配分を厚くするとともに、個人株主の取り込みで携帯電話事業の加入を増やすのが狙いだ。

 

[45] 例を以下に列挙する。

·          新日鉱ホールディングスやモスフードサービスが初の個人投資家向けIR説明会を実施。

·          40万人超と国内屈指の個人株主を抱える新日本製鉄が、個人株主の意向調査に乗り出した。

·          製薬大手のエーザイが株主総会の招集通知を大幅に刷新。情報量を拡充したほか、図表やカラー写真をふんだんに取り入れ文字も大きく見やすくした。追加情報としては、取締役候補者の顔写真をカラーで載せ、取締役会への出席率や本人の意気込み(マニフェスト)なども記載。また、経営戦略や環境対応など株主総会とは直接関係ない情報も多く掲載した。この結果としてページ数も郵送コストも昨年の倍以上になったという。

 新会社法の適用により、会社の株主に対する説明責任が強化され、説明すべき事項が増えた分、今年の召集通知が昨年より厚くなった企業は多いが、上記のエーザイの行動は異例とのこと。ちなみに会社法が経営者に情報発信を強化させるのは株主の保護だけが目的ではない。情報開示を怠れば企業の本質的価値が株価に反映されず、買いたたかれやすくなってしまうのである。

 

[46] MBOは米国で1980年代に活用され始め、日本では2000年ごろから目立ち始めた。最近では株式を上場したままでは難しい大掛かりなリストラに踏み切りたいといった理由から、ポッカやすかいらーくなど、MBOによる非上場化を選択する企業が増えている。06年は前年より2割増え、07年も増加する見通し。

 上記の問題の他に、MBOには税務上での課題も残されている。それは0610月以降適用の税制改正の影響で、従来主流だった手法を使うと税負担が生じるためだ。10月以降は税負担が生じない新しい手法も登場しているが、本当に税負担が生じないかどうかはまだ不透明である。

 従来は産業活力再生法の認定を受けて株式交換を行い、少数株主には現金を渡して退出してもらう方式が一般的だった、しかし、税制改正で買収会社の株式以外を対価とした株式交換には税負担が生じるとなったため、10月以降発表のMBOでは一株に満たない端数株式を使った二つの手法が登場した。

 一つは「端数株式交付・株式交換方式」。この方法では株式交換の交換比率を極端な比率とし、少数株主には端数株主が渡るようにする。その後に端数株式を現金で買い取る。株式交換で交付するのは買収会社の株式なので、課税対象とならないという考え方だ。

 もう一つは、「全部取得条項付種類株式(全部取得条項付株式)方式」。この手法では被買収会社が定款変更で普通株式を全部取得条項付種類株式に変更。株主から株式を全部取得し、代わりに別の普通株式を交付する。このとき交付比率を調整し、少数株主には端数株式しか割り当てない。その後に端数株式を現金と引き換えに買い取る。この手法ではそもそも株式交換を使わない。

 税負担の有無は買収価格にも影響するだけにMBOにおいて重大な問題だ。税制改正は株式交換・移転を組織再編税制に一本化する趣旨だが、これにより税負担が大きいと、MBOを使った企業再編の進展にブレーキをかける可能性もある。(日本経済新聞20061117日)

 

[47] 074月、焼肉店「牛角」のレックス・ホールディングス(HD)の経営陣(と和製ファンド「アドバンテッジ・パートナーズ」)によるMBOに対し、価格に不満を持つ一部個人株主らが東京地裁に申し立てたことにより、これまでの制度の不透明さが指摘された。07328日の株主総会で、すべての株式に「取得条項」を付けられる定款変更が承認された。

 

[48] この手法は、レックス・ホールディングスのMBOにおいて日本で初めて活用された。

 

[49] 剰余金の配当や残余財産の分配、株主総会での議決権、譲渡制限の有無、役員の選任権などについて、内容が異なる株の総称。配当を優先してもえる優先株や議決権のない無議決権株式などがある。 

 旧商法でも種類株は認められていたが、会社法は規制をさらに緩和。議決権を制限する株の発行量について発行済み株式の半分以下としていたが、中小企業などについては発行枠を撤廃した。無議決権株の大量発行ができるようにし、事業継承策として活用しやすくした。

 また、073月、国税庁は中小企業の事業承継を円滑に進めるため、無議決権株など「種類株」の新たな相続課税ルールを固めた。経営に関与しない無議決権株は相続税の評価を5%軽減。経営を継がない子供の税負担を軽くして、後継者に議決権のある普通株を集中しやすくする。これまで未整備だった課税ルールが固まったことで、支配権争いを避けるための種類株の活用が進むとみられる。新ルールは0711日以降に相続が発生したケースから適用する。(日本経済新聞0739日)

[50] 企業が自社株を買い取る場合、買い取り価格と一株当たりの資本金の差額を株主に対する利益の払い戻しとみなして所得税を源泉徴収する。差額が出れば、株を売って損失が出ても課税される。

 

[51] 村上ファンドの投資先を調べた中央大大学院の鈴木一功教授は、株価こそ投資後に平均以上上げたが、中期的にみた収益率はライバルより劣る例が多いと指摘した。(日本経済新聞0768日)

 

[52] 株式を通貨(「コーポレート・カレンシー」=企業通貨)と最初に意識した日本の経営者は盛田昭夫氏だろう。ソニーは1960年代にADR(米国預託証券)を発行し、自社株買いや株式交換など資本主義・株式会社の洗礼を受けた。盛田氏は株式が通貨に匹敵する現実を見て、「経営者は通貨の発行責任を自覚する必要がある」と語っていた。(日本経済新聞061212日)

 株式を通貨と見れば発行会社は発券銀行に当たる。金本位制の兌換銀行券の担保は金準備だったが、管理通貨制度の現在は中央銀行が唯一の発券銀行で、政府の信用が担保になる。企業が発行する株式通貨の担保は経営(企業価値)に帰着するとはいえ、通過の代替機能を果たすために必要な株式の交換価値の品質は証券市場の価格生成能力に左右される。

 株式交換において、株式の品質(株価)は極めて重要だ。なぜなら市場経済の原則は等価交換だが、株式交換は株式の品質しだいで不等価交換になりかねないからである。したがって株式の品質を高めかつ維持するために、世界統合総合取引所において、交換比率(価格)の公正性・情報開示や流動性(換金性)を確保し、自主規制や行政の市場監視機能を強化すべきなのは言うまでもない。

 

[53] 欧米では証券取引所や商品取引所間の買収・合併を経て再編・統合に向かっており、欧州では1989年から、銀行本体で証券業務を行えるユニバーサル・バンキングが認められ、アメリカでは兼業を禁止していたグラス・スティーガル法が1999年兼業を認める新法に置き換わっている。日本でも、20074月から、経済財政諮問会議や金融審議会で、銀行・証券兼業規制の見直しや、持ち株会社化した証券取引所の傘下に商品取引所等をぶら下げる「総合取引所」構想が議論され始めた。つまり、証券取引も商品取引も、全てが一体化に向かって進んでいるのだ。

 ちなみに日本が構想する「総合取引所」について、0772日にシンガポールを訪問中の山本有二金融担当相が、株式から商品先物まで幅広く扱うシンガポール取引所をモデルに、日本でも上場商品を拡充することで取引所の総合化をめざす考えを明らかにした。経済財政諮問会議などで様々な取引所を再編させる構想も浮上していたが、当面は東京証券取引所の上場商品を多様化する方向で検討する。監督体制の一元化などが今後の課題になる。(日本経済新聞0773日)

 東京市場(東京証券取引所)の競争力強化の具体的内容としては、07614日、金融審議会の中間報告(主そうの諮問機関)より、上場商品の多様化の他、国内金融機関や投資家の自由度を高める改革が提言された。同時に、課徴金制度の見直しをはじめ、東京市場の信頼を高めるための規律強化策も盛り込んだ。しかし、複数の省庁との調整が必要なテーマも多く、迅速な実行が課題となる。(日本経済新聞07614日)

  

[54] 脚注の2に、“帝国データバンクが20073月下旬に行った調査で、回答を寄せた9736社のうち、46.4%の企業が三角合併解禁について「懸念が大きい」と回答している。逆に、「期待が大きい」とした企業は、わずか7.9%に過ぎなかった。最大の懸念事項として、「大企業による寡占化」と答えた企業は52.4%、「外資による買収攻勢」と答えた企業は45.9%もいた。”というデータを載せた。この結果に対し、あくまで推測にすぎないが、経営陣だけでなく従業員も含めて回答していたならば、違う結果も見えてきたのではないかと思う。

 

[55] 2007年上期(1~6月期)の世界のM&Aは前年同期比5割増の約25千億j(約300兆円)となり、上期として過去最高を記録した。トムソン・ファイナンシャルが621日までの集計したM&A件数は18600件だった。地域別では欧州企業を対象にした買収が前年同期より約7割伸び、1190億jとなり、米企業の買収にほぼ並んだ。好業績などを支えに大型買収に打って出る流れが広がり、一件あたりの平均額は13千万jと5割を上回っている。

 一方レコフによると、日本は20071~6月の上場企業を対象としたM&A338件と前年同期を約2割上回って半期ベースで過去最高となった。海外企業による買収や、業界・グループ再編などが活発で、TOB件数も50件と過去最高。

 

[56] 福沢諭吉が言う国体とは「ナショナリティ」の翻訳であり、よく知られているような、「万世一系の天皇」が日本を統治する体制のことではない。国体とは人種・宗教・言語・地理・共通の歴史で結ばれた人々が、一つの国を建てているさまを指す。したがって国体の維持とは、独立の維持のことである。次に政統とは今日の言葉でいえば政体のこと。政統が替わっても独立が維持されれば問題はないから、政統は国体より重要性が落ちる。そして最も重要性が低いのが血統である。君主の血統が途切れても、政統が変わるわけもないし、ましても国体が変わることもないからだ。だが他方、東洋の一部地域のように血統が維持されても外国の支配下に入れば、国体は失われてしまう。